今回のトリビアは教員の湯島彰良が担当します。
9月9日が「救急の日」だそうで、「救急医療」に関するお話をさせていただきます。
一般的な日本における救急医療のイメージは、119番通報を受けて救急車が出動し、救急医療に対応する病院が24時間体制で重症度・緊急性の高い患者の治療に当たる、といったものだと思います。
東洋医学が主流だった頃の日本では意識を失った患者に対し、鍼や指圧で「水溝」というツボを刺激するという治療が行われていましたが、現代日本の救急医療の現場で鍼灸師が活躍することはまずありません。
ところが、アメリカのミネソタ州にある「The Abbott Northwestern Hospital (アボット ノースウェスタン病院)」の救急外来では鍼治療が行われているそうで、2016年に日本の鍼灸師の中で話題になりました。
ただし、アボット ノースウェスタン病院で行われている救急医療は日本で「ER型(または北米型)救急医療」と呼ばれており、重症度,傷病の種類,年齢によらず全ての救急患者を救急外来で診療するという特徴があります。そして夜間や休日に自分で、あるいは家族に連れられて病院を受診した患者の対応まで救急病院の役割としているのだそうです。
アボット ノースウェスタン病院の救急外来には様々な痛みを訴える患者さんが受診されるのですが、アメリカでは医療用麻薬の乱用が問題になっており、治療目的であっても医療用麻薬を処方することを控えたい事情があります。
そこで登場するのが鍼治療です。鍼治療による鎮痛効果を期待して、緊急性が低くて痛みの程度が軽い患者さんに対し鍼治療が提案されています。
私がこの話を知ったとき、水溝のツボが蘇生や気つけの目的で使われているのを想像してワクワクしたのですが、ちょっと調べてみればアメリカの救急医療の現場で行われている鍼治療も、普段我々が行っている鍼治療とさほど変わりはないようです。
ちなみに写真の指先の位置にある「水溝」のツボは強い刺激が出やすい場所にあり、鍼や指圧には強めの痛みが伴います。救急医療の現場では使われなくなりましたが、指先で適度に刺激をするなどして眠気覚ましのように使う分には丁度いいツボかもしれません。